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世間を引っ繰り返すよな仰天動地な荒事や、
国家さえ薙ぎ倒したいような驚異的異能者軍団による革命まで。
どんな暴虐にもどんな専横跋扈にも屈せず、
力なき民を救うための武装と異能を繰り出す頼もしき集団。
つい最近では並行時空との接触なんてな
奇想天外な事態に巻き込まれもした方々でも、
生理的に苦手なものはお有りらしくて。
『ちょっと聞いてよ、国木田。』
我らが探偵社が黒いG騒動に沸いた (?)その数刻後、
殺人事件への助っ人にとやや遠方へ招聘されていた乱歩さんと賢治くんも
依頼先から無事に帰社したものの、そっちはそっちで、
『帰り道の山道で随分と大きなヤマカガシと遭遇してね。』
啓蟄とはいえ まだまだ寒かろうに、あんな大きな蛇が突然出てくるなんて想定外だよ、
此れだから片田舎は嫌いなんだ、と。
外套だったインパネスの下に重ねていた、
型は似ているがそちらは柔らかい素材のケープタイプの上着を羽織ったまま、
当社が誇る天才名探偵が見るからにプンプンと怒っておいでで。
『賢治くんがいたから助かったものの、ボクの貴重な寿命が何か月分か縮んでしまったよ。』
ああやだやだと、気持ち悪かったのを払拭したいか何度もかぶりを振ってから、
駄菓子の箱をがさがさと漁ると、練ると色が変わる菓子を掴み出し、
厄払いのようにプラスチックの匙を回し、練りの作業に取り掛かってしまわれて。
「ああ、蛇はさすがにボクも苦手だな。」
探偵社のあるビルヂングの一階にて開店中の喫茶店『うずまき』にて、
さすがになぁと眉を下げて困ったような表情となった敦嬢で。
自身は例の孤児院の劣悪な処遇の中、
地下牢に閉じ込められるたび そのような蟲とも頻繁に遭遇したがため、
黒G辺りは もはや当たり前な環境付帯物という感覚になっていたまでのこと。
とはいえ、蛇やムカデはさすがに噛まれれば痛いし毒が怖いと感じているらしく、
同じ理由で蜂や毛虫も苦手だなぁと苦笑する。
社内で最年少の賢治ちゃんが社のお姉さまたちから頼りにされているのは、
生まれ故郷が自然の宝庫な土地なため、蛇をあっさり退治したほど そういった類への馴染みも深いせいで。
そばかすも愛らしい童顔を ふふと罪なき頬笑みにほころばせ、
「ダニやヒルも油断は禁物ですよ?」
「そういや外来のアリや蜘蛛にも猛毒を持っているのが居るらしいしね。」
「…貴様ら、せめて食後に持ち出せ。」
一見するとそれは愛らしい少女らが何とも微妙な話題に沸いているものの、
それを咎めるような視線や気配はない。
混み合う時間帯ではないせいか、
店内には静かなインストゥルメンタルが流れており、
そういう空間だとこれでもちゃんと見越してのお喋りとなってたらしく。
揃って“危険な仕事”にあたった二人へ 社長から授けられた、
好きなものを食べて来ていいからというありがたいお言葉とご褒美入りの封筒をかかげ、
遅めの昼食兼おやつにと、足を運んでいた敦と賢治の会話へ。
唯一、しかもすぐ間近から眉をしかめて水を差した存在も居はして、
「だってさ。ゴ…Gは慣れればさほど怖いということはないのに。」
「ですよね。不潔ではありますが、噛まれるわけでなし。」
「都会の清潔なところで育った人には生理的な嫌悪が沸くらしいぞ。」
かくりと小首を傾げつつの敦嬢や賢治ちゃんの屈託のない言いようへ、
理由なんてない生理的な嫌悪だから仕方がないことだと、
ロココ調の繊細な仕様のティーカップがその痩躯や佇まいにいや映える、
いかにも深窓の令嬢風の少女が、誰を庇ってか そうと助言をする。
今日は非番だったらしいのを思い出し、
停戦中だし 社へ直に来いというのでなしと、
『新作のスィーツ、試食させてもらえるって。』
電子書簡でそうと誘って呼び出したところ、
あっさり運んでくれた、ポートマフィアの禍狗姫こと芥川で。
マスターの奥様お手製の新作スィーツは、
日頃小食な龍之介嬢の口にもたいそう合ったらしく、
『生クリームとカスタードの比が絶妙で、
口の中から存在感が消えるすんでのそこへ
ベリーの酸味が届いて後を引く仕様が何とも言えぬ。』
小さめのモンブラン風のケーキへ ほうと甘い溜息つきで称賛したものだから、
奥様もたいそう喜び、フルーツタルトをオマケしてくださったほど。
勿論のこと お世辞なんて言ってない、
むしろ正直者過ぎて別のところでは結構損ばかりしているこちらのお嬢さんも実は、
貧民街では天道虫レベルの昆虫扱いだった黒いGはさほど怖い対象でなかったことから、
女性幹部らが日頃の凶悪さを放り出して右往左往するのへ冷静に対処出来、
男性構成員以上に頼もしき火器よと、任務外でもその対処に呼ばれるコトが多かったらしく。
「太宰さんもそこだけは買ってくれていたくらいだったからな。」
ティーカップの縁に口をつけつつさらりとこぼせば、
余程に意外だったか虎娘が えええ?と食いついてくる。
「え? マフィア時代から ああだったの?」
「然り。」
ちなみに、こちらの太宰さんが心中にお誘いするのは、何故だか麗しき“女性”ばかりだそうで。
調査だったり奢らせる下心のためだったりという目論見あっての男性への意味深なアプローチとやらも、
あの端正なお顔と絶妙な均整の取れたプロポーションと、
艶に低めた雰囲気たっぷりなお声で万全にこなせるそうだが、
それ以上に…愁いを含んだお顔へ甘い雰囲気を醸すことで
何故だか妙齢の女性らもあっさりとなびかせている恐ろしさ。
何でも、女性同士ということで油断しているところへするりと近づき、
世間知らずなお嬢様から、仕事一筋なキャリアウーマン、
世慣れしてそうな水商売のお姉様まで、
そりゃあホイホイと墜としておいでで。だというに、
「あんなに男前な人なのになぁ。」
「ですよねぇ。」
同じ探偵社所属のお姉様社員というお顔しか知らない賢治くんにしても、
都会の判らないことだらけなあれこれを
一つ一つ教えてくれる頼もしい姉様、という認識が下地にはあるようで。
だが、
「ああいうものへの苦手意識に 男も女も年上も年下もなかろうよ。」
しれっと言い放った芥川さん。
今日は非番だからか、やや濃いグレーが基調のチェスターコートに、
襟元が華やかなブラウスと品のいいドルマン袖のチュニックを重ね着て、
ボトムは巻きスカートといういでたちで。
指名手配犯ではあれ、こうまでの美少女をそうそう直視できるつわものも少ないせいか、
非番の日に通報されたためしは少ないらしい。
黒の青年とはやや趣が異なる風貌なのへ ついつい話が逸れたが、(笑)
男衆や年長さんを責めてやるなというよな言い方をしたそのまま、
「中也さんだとて、重力操作を忘れるほどに大慌てなさる。」
「え?それホント?」
意外だったか、虎の少女が暁色の双眸を零れ落ちんばかりに見開けば、
「貴様ら、口は堅いか?」
探偵社側の二人の少女を交互に見やってから、
一応の用心、周囲をくるりと見回して話してくれたのが、
「先だって とある倉庫での“仕事”があってな。」
食糧貯蔵関連の倉庫でなし、はっきり言って資材系統の場だから居るはずがない“其奴”が、
殲滅完了後に何処からかちょろりと姿を見せたのだが。
「せんめつ?」
「組織同士のちょっとした喧嘩のことだ、追及するな。」
マフィアならではな専門用語へ、唐突が過ぎて意味が判らなかったか
小首を傾げた賢治嬢だったのを軽やかにあしらってから、
「掟破りにも人様の荷を勝手に持ち去ろうとした手合いらを、
たった一人で一通り畳んでしまわれた中原さんだったのだが。
お嫌いなものへの感知は鋭敏になるもので、かさっという響きだけで勘づくと、
あとは任せたと場の主導を やつがれへ譲られてな。」
「……それって。」
見るのも嫌だと逃げたってことか?と、
視線だけで問う敦だったのへ、こくりと頷き、
「というか、以前 重力操作で対処なさろうとしたのだが、
あやつの身はいくらでもしなう憎たらしい柔らかさなので、
じわじわ潰そうとしても効果がなかったそうでな。」
なので、それ以降はやつがれが対処するようになったと。
ちょっとしたお当番のように言ってのけ、品のいい口許を香りい紅茶で潤す黒き少女ではあったが、
“樋口がいちいち外套を着替えろとうるさいのが敵わぬ。”
全然の全く問題がないではないようで。
『早蕨で何処に突き刺しましたか?
判らないのでしょう? だったら着替えてしまってください。』
あのような汚らわしきものを突き通した外套、
いつまでも先輩にまとわせとくわけにはいきませんと、
激昂して言いつのるものだから、
いちいち着替えのクリーニングに出しので、結構な経費がかかっているとか。
そんな現状へややむっかりと眉を寄せた芥川だったことにまでは気づかなかったか、
「わあ、じゃあ二人で居る時に出たら怖がらないで退治してあげなきゃあいけないかな。」
勝気そうな帽子の姉様と、
実は大切な仲となっている敦ちゃんにしてみれば、
姉様の意外な弱みへどうしようとちょっと困惑しておいで。
だってそんな、中也さん本当は怖いんだろうに、任せてしまうのって気の毒かも。
そうだろうな、
頼って任せた方がいいかも知れぬが、それだと却って嘘をついていることになるかもしれぬ。
だよねぇ、そういう嘘、まずはボク自身に自信がないし…と、
事情が通じておればこその機微の取り扱いを取り沙汰してしまった白と黒の少女らで。
「人へは結構辛辣なこと出来る人たちなのになぁ。」
「然り。」
なのにあんな小さな虫へはそうまで怯えてしまうなんて、
「人ってそうやって辻褄が合っているものなのかなぁ。」
「さてな。」
妙にしみじみしてしまった豪傑少女のお仲間二人へ、
「???」
途中から微妙に話が見えなくなったらしい賢治がキョトンとしている一方で、
「…はっ、なんか敦に残念がられた気がした。」
「奇遇だね、私も芥川くんから溜息つかれた気がしたよ、今。」
次の共闘案件の打ち合わせ中だった誰かと誰かが、
どういう勘の働きようか、そんな第六感の働きにハッと胸底を突々かれていらしたそうな。(笑)
◇◇
「ここで ちなみついでの余計な余談を一つ。」
童謡の“こがねむしのうた”をご存知だろうか?
金蔵建てたり水あめ買ったりする小金持ちのコガネムシ、
実はゴ〇ブリのことを歌った唄だと言われている。
食べ残しが出るほどに裕福な家でなけりゃあ姿を見ることはない存在なので…という歌らしく、
小さくてキラキラしていて、
予告も無く洗濯物にくっついて不法侵入を果たした上で夜中に電灯目掛けてぶんぶん飛び回ったり、
夕刻に網戸へ特攻かけてくるコガネムシじゃあないとのこと。
いえ、特に他意はない描写ですが、何か?
「わあ、太宰さんて相変わらず物知りですよねぇ♪」
「本当なのか? その話。」
それは素直に虎の少年が感心するものの、
いつもいつも振り回されている国木田としては、
こうまで怪しいとそうそう信じることが適わぬらしく。
ぱぁあと双眸見開いてワクワクとしたお顔でいる敦くんの様子を尻目に、
胡散臭いと言わんばかりに眉をひそめておいで。
女性中心の武装探偵社&ポートマフィアの 微妙な春なのを綴りましたが、
ではでは、そういった方面へも頼もしかろう、男衆揃いのこちらの皆様だとどうなるかといやァ。
「大変ですっ、資料室に出ましたっ!」
「退治願います!!」
事務方の女性が駆け込んだ執務室には
間の良いことに敦と鏡花がいたものだから。
悍ましいとされる害虫も何のそのという点は変わらぬか、
「行ってくるね、鏡花ちゃん。」
「私も。」
自分だって戦えるとばかり、胸元へ小さなこぶしを握った和装少女と、
キリリと決意を染ませた眼差しを取り交わし、
いかにも凛々しいやり取りをしつつ、凛々しく立ち上がった変則兄妹に続き、
「よぉし、後詰めは任せたまえ。」
余程に面倒な案件のそれだったらしい書類整理よりはと思ったか、
珍しくも太宰までもがついてゆき、
「バ〇サン買っておかなきゃいけないねぇ。」
「春になりましたねぇ。」
与謝野せんせぇと賢治くんがほのぼのと言葉を交わす。
こちらはさすがにさほどの大騒ぎにはならないらしい一コマだったらしいです。
〜 Fine 〜 18.03.10.〜3.12.
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*小ネタのつもりでしたが、ついつい延長。
ポートマフィア側の話も書きたくなったもんで。(笑)
人間が相手なら結構えげつないことしちゃうお姉様がたも、
Gにはただただ逃げ惑うばかりならしいです。
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